おかいさんといっしょ

おかいさんが極めて個人的なことを吐き出すからいっしょういっしょにいてくれやみたいなブログ

ドラゴボって略す派ともうまく付き合えるコミュニケイション

私は中学生時代にサイトウ塾という個人経営の学習塾に通っていた。
特別成績が悪かったわけではなく、むしろクラスでも勉強はできた方だったのだが、親のすすめで習い事感覚で通いはじめた塾であった。
私が通う中学校とは別の地区にあったため、そこの生徒は私が全く知らない人ばかりだ。

夏から通い始めたそこには、ナメック星の最長老様みたいな風貌のサイトウ先生の他、4人の他校生がいた。
当然彼等4人は同じ中学の仲間というコミュニティが形成されていたため私は完全によそ者。数学のナントカ先生がとか、野球部のダレダレがとかで盛り上がる彼らの話題には全く入っていけなかったし、私自身も彼らの輪に入ろうとせず、ダレダレがの話からノガレて大人しく好きな小説を読んだりして過ごしていた。

別に話すことが嫌いなわけでも、読書を優先したかったというわけでもない。ではなぜそうしていたか。

私は怖かった、彼らの輪を刺激する事で迫害されるのが。
自衛のため、私はまるで置物のように大人しく邪魔をしない、単なる違う中学の地味なヤツとして過ごしていた。

 


■中学生岡井

『2-6』

自宅から徒歩10分の学び舎の2階、そう書かれたプレートの下の扉を開けるのが苦痛だった。
それでも逃げるのは負けだと毎日自分に言い聞かせ、静かに扉を開ける。

私が教室に入るとクラスは一瞬の静寂の後それぞれの話に戻っていく。
ああ、またこれだ、この空気だよ、大嫌いだ。

 


もともと活発でよく喋るタイプだった私は、自分で言うのもなんだがそれなりに人気者であった。
それはもうドラゴンボールで言えば悟空に相当するほどの人気爆発はごろもフーズ状態であり、みんな仲良く楽しくやろうぜ、なんならオラが笑わせてやっぞ、みたいに幼稚園・小学校と過ごし順風満帆な人生に思えた。

しかし思えば順調がゆえに気付いていなかった、周囲が成長するとともに精神的にも複雑な面が形成されることに。
中学生ともなると、自分の人生や地位、男女の意識など様々なことを考え始めるし、それぞれの「個」と「集団」の折り合いを考える時期でもあった。

私も考えていないわけではなかったが、今まで通り元気にカラっと過ごしていけば大丈夫と信じて疑わなかった。

そしてそれが周囲に嫌悪を巻き起こし、誰かがこう言いはじめた。

「あいつ、ウザくね?」

 


この頃から私はクラスで浮く存在となり、ほどなくしてアイツ無視してやろうぜという流れが形成された。
今まで悟空だった私がいつしかヤムチャ、いや、非戦闘タイプのナメック星人くらいになっていたのだ。
『クラスの人気者だった悟空がナメック星人に転生したら空気化してポルンガにすら無視されてる件』としてラノベ業界をピッコロしてやりたいくらいだ。

今ならば理解できるが、誰もがいつでも明るくほがらかに過ごしているわけではない。
それぞれが成長と共に複雑な悩みを抱えるなかで、何も考えていないようなヤツがウロウロしていれば目障りだっただろう。
私だって会社の同僚として悟空が入ってきて、四六時中隣で強えヤツと闘いたくてワクワクされたらうんざりしそうだ。

おはようと言っても誰もかえしてくれない。

グループを作る授業では避けられる。

「岡井以外はこの後公園でサッカーしようぜ」なんてあからさまなのもあった。

暴力をふるわれたり物を盗られたりするわけではなかったが、徹底して私は仲間外れにされていた。

 


■見えない悪意

不思議なことに、特に私を毛嫌いしている一部を除くクラスメイトは個人同士だとある程度は対応してくれた。
委員会や部活時などは友好的ではないにしろ雑談も成立した、状況限定でドドリアさん程度の存在感は示すことができたのだ。

 


そこで私は集団の怖さというものを認識した、怒れるフリーザ様を前にしたベジータのように恐怖した。

個人ではそれぞれの個性は長所であったりするものだが、こと集団となると目立つヤツは輪を乱す者とみなされてしまう。
自分はそんなに嫌じゃないけど、周りがそんな雰囲気だから、なんとなく面白そうだから無視しておこう、そんな感情が蔓延していたのだ。

これには絶対に勝つことはできない、なぜなら勝つべき相手が、敵がいないから。
自分に殴りかかってくる不良がいれば、殴り返すことで克服できる。
物を盗る犯人がいれば、捕えることで自分の正義を訴える事もできる。
しかし闘う相手はどこにもいなかった、それはただ何となく煙たがられ、面白半分に仲間外れにされるゲームだった。


昨日の委員会時には笑顔でプリントを渡してくれた鈴木さんも、クラスに入るとまるで私が存在しないかのようにふるまっている。

私もこの状況がいじめなのか何なのか、もうわからなくなっていた。
担任や親に相談するっていったい何を相談するんだろう、連絡事項はまわってくるし、全く話ができないわけじゃない。
暴力ももちろんないそれっていじめなの? なにかの勘違いじゃないの?

 


いつしか私は、ただ学校と家を往復するルーチンワークを淡々とこなす中学生活を繰り返すようになった。ストレス性の胃腸炎をかかえるようになったし、それがまた周囲に白い目で見られるネタとなっていた。
ナメック星人であれば水だけで生きていけるところだが、暗くて弱いのに飯だけは食べる悟空、という木偶の坊以下に弱体化したどうしようもない存在となっていたのだ。

ただ、何故か休んだら負けというような思いがあった。
私はクラスの玩具ではないし、この状況を笑ってる奴らの思い通りになりたくない、絶対に泣いたり休んだりしないという意志があった。
結局は皆勤賞をもらった中学生活だったが、楽しかったかと聞かれるとそもそもあまり記憶に残っていないような毎日が続いた。

 


■17時からは別人

夏休みを前に、親から塾に通わないかと提案された。知り合いが先生をしているらしい。
なんだかんだで成績は悪くなかったし、受験のことを考えても多少の余裕があるくらいだったためはじめは断ったが、強引に押し切られるようなかたちで話が決まっていた。

学校のこともあたりさわりのない話しか報告していないため、心配されてということでも無いとは思うが、毎朝無気力気味に家を出ていく子供をみて、親なりに何か感じるものがあったのかもしれない。

そうしてサイトウ塾に通い始めた私だが、クラスであったような同じ轍は踏むまいと、しばらくの間は不気味な程大人しく机に向かってせっせと練習問題を解いて過ごした。

「岡井君って隣の中学から来てるんでしょ? どんな漫画流行ってんの?」

帰る用意をしていると、隣に座っていたスルガ君が話しかけてきた。
はじめはやや警戒したものの、男子中学生なんて単純なもので野球・サッカー・漫画やゲームの話題ですぐに打ち解けた。
それからは塾の仲間と遊ぶことが増え、塾帰りには寄り道して遊びながら帰ったし、日曜日には遠出して遊びに行くこともあった。

あまり気にしていないつもりであったが、私はここで救われていたのかもしれない、ただ中学と家との往復しかしていなかった日々とは全く違った気持ちになっていた。

なお全くの余談だが、後にスルガ君は高校でできた彼女のパンツを盗むという愚行をおかしフラれるという、おもしろウーロン野郎であった。その際「ギャルのパンティーおくれーっ!!!!」と叫んだかどうかは不明だ。いや、多分言ってないけど。

 


■いじめに悩むキミに

なんだか突然中学生に配布される小冊子みたいな小見出しが付いたが、私が言いたいのは駄目な場所だと思ったらとっとと離れた方が良いということだ。
誰だって嫌なヤツに囲まれて生きるのは難しいし、そこで意地を張った結果つぶれてしまうのは悲しい事だ。
ましてやそれに打ち勝つエネルギーを持った人なら、そんな力をしょうもない我慢に使うのはもったいない、もっと認めてくれる人のために使うべきだ。

学校でも会社でも、趣味のサークルでもなんでもいいけれど、なんらかのきっかけでつまはじきにされる時がくるかもしれない。
不満はあるだろうけれど、でもそこで人生を、命をかけてしがみつくべき場所なのかをよく考えてほしい。

原因が自分で思い当たれば、同じ失敗はしないぞと教訓にして去ればいいし、全く身に覚えのない、理不尽なものであればとっとと見切りをつけるべきだ。
結果的に一番傷つく人がいないのがその方法だと思う。

学校や職場は生活の中心となるので逃げ場が無いと思うかもしれないけれど、別のコミュニティは決して遠くない場所に存在する。
家族という関係は最も身近なそれだし、今や手軽にはじめられるネット上の付き合いだって全く馬鹿にできない。天下一武闘会では悟空に負けたけれど、水を持ち帰ったナムさんは村のコミュニティでは今も英雄に違いない。

 

すっげえ強え敵が現れてワクワクするのは、戦闘民族のサイヤ人だけに任せておけばいいのだ。

 

 

 

ドラゴボって略す派ともうまく付き合えるコミュニケイション   終