タケダのお返事スパニッシュ
タケダは自分に自信が無かった。
彼は後輩だったが、誰が話しかけても自分への言葉だと認識するのがワンテンポ遅れていた。話しかけると必ずと言っていいほど「……オレ? オレっすか!?」みたいに言うのだ、部屋に二人しかいない時に話しかけても言う。
話を聞くと呼びかけが聴こえていないわけではなく、自分に話しかける人がいるわけがないという認識のもとに一旦スルーする癖がついているらしい。
タケダを含む数人でコンサート会場スタッフの短期アルバイトに行った時のことである、そこにはバイトリーダーがいたのだが、この道20年のベテランらしく「コンサートの成否を決めるのは俺たち会場スタッフだ」みたいな考えで働いていて目茶目茶厳しい人だった。
そんなリーダーとタケダとの相性は最悪の一言だった。厳しい人ゆえに返事も即座にハッキリとしなければならなかったのだが、相変わらずタケダは「……オレっすか」を繰り返し、コンサート2日目にリーダーがキレた。
「タケダぁ!! さっきからオレすかオレすかっていちいちナメてんのか、タケダって名指ししてんだから一回で聞けよ!!」
「……オレっ、あ、オレ」
ギリギリ「オレっすか」を避けたがタケダはかなり危ない。
「何なんだよオマエはオレオレって、あれか、フラメンコか!? もしフラメンコダンサーなら仕方ないけど、タケダはそんなんじゃねえよなぁ」
情熱の国と呼ばれるスペインの踊り、フラメンコ・オレを出してくるあたりなかなかトンチが効いているリーダーである、思ったより怒ってないのかもしれない、ここはひとつすいませんでしたと頭を下げ、以後気を付ければおさまりそうだ。
「あの……オ、オレ、フラメンコダンサーっす」
タケダはバカだった、怒られたくない一心での突然フラメンコ宣言。見え見えの言い逃れをはかるタケダ君に対しリーダーの怒りは目に見えて高まっていた。
「はあっ!? テキトー言ってんじゃねえよ、じゃあ踊ってみろ!!」
絶対に踊れないタケダは顔色がドス黒くなっていった、見守っていると脳内BGMがバルログステージになる、一体どうなるんだ。
「……オレィ!!」
しばし沈黙の後タケダが叫び、身体をくねらせて右手を突き上げた。彼が考えた精一杯のフラメンコは、見事なまでにピンクレディーUFOのポーズだった。
「それのどこがフラメンコだコラァ!! ブヒャヒャヒャ!!」
リーダーは笑った、なぜか結果的に丸く収まった。それはその場をなんとかしたいというタケダの情熱がつくりあげたスペインの奇跡だったのかもしれない。
べるさま @bellsamayo さんのお題『スペイン』より