おかいさんといっしょ

おかいさんが極めて個人的なことを吐き出すからいっしょういっしょにいてくれやみたいなブログ

怪談を推理したら中二病っぽくなった

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私はあまり怪談を楽しめないタイプだ、子供のころからずっとそうだった。

ことわっておくが、決して怪談好きの人を馬鹿にしているわけではない、むしろ楽しみ方を教えていただきたいと思っている。

 

では楽しめないとは具体的にどういうことか、怖がりで楽しめないというわけではない、おそらく好奇心や探求心を優先してしまう私の性格、そして国語教育上が抱える問題なのではないかとにらんでいる。

 

 

お前だなんて言わないで

小学生時代、担任教師がこんな怪談を披露してくれたことがあった。

 

猫をいじめていた小坊主が隣村の寺におつかいに行く。そこの住職から悪いことをしていないか、弱い者いじめはしていないかと質問されるが、そんなことはしていないと嘘をつく小坊主。すると質問は白い猫を知らないか、面白半分に棒で猫を殴らなかったかと具体的な内容になっていく。そしてこの傷をつけた嘘つきの小坊主は知らないかと住職が額の傷を見せて言う、「ワシは知っている、それはお前だ!!」と。

なんと住職の正体はあの猫だった、それから小坊主は生き物を大切にするようになった。

 

話のオチ部分で担任が「お前だー!!」という声とともに指さしてきた、クラス中わぁと驚く見事なエンターテイメントだ。

 

しかし私は驚かなかった、なんのことだろう、指をさされたのは誰かなと振り返って後ろを確認した時に友達の中田君から「いや、お前だよ岡井」とツッコまれたほどだった、完全に噺家殺しである。時期的にも世紀末だし拳法殺しのハート様みたいにぶひひと笑えばよかっただろうか。

 

他にも小学生時代などはトイレの花子さんに代表される「学校であった怖い話」系の話題に触れる機会も多く、怪談イベントにも参加した記憶がある、しかし全く楽しめた記憶が無い。

 

慮る岡井少年

私はもともとリアクションが薄いタイプではあるが、それ以上に怪談内容が全く頭に入っていなかった、話の内容に疑問が生じてそこばかりが気になってしまうのだ。

 

先述の話でも、はじめに小坊主が隣村におつかいに行くというくだりからしておかしい、おつかいとは具体的になんの用事なのだろうか。目的地に着いても何か届け物を渡したり、伝言をするといった描写はみられない、いきなり猫住職の説教が始まる。なんだ、いったい小坊主は何をさせられているんだ、もしかしたら知らぬ間に大麻の運び屋とかをさせられているのではないだろうか、あれか、闇営業か、本当は恐ろしいグリム童話みたいな感じの恐ろしい闇の寺なのだろうか、小坊主を管理する寺の坊主が怪しいぞなどと気になってお前だどころではない。

 

話をスムーズにするため、あえて簡潔な話運びにしていると考えることもできる。しかし主人公である小坊主の旅立ち理由とはこの物語の大切な部分ではないだろうか。桃太郎であれば鬼退治、ドラクエであれば魔王討伐と姫の救助、はじめてのおつかいであってもお母さんのために牛乳を買うという明確な目的があり、そこから主人公の置かれる環境や人間関係なんかも想像させるものだ、本当になんなんだ「おつかい」って、隠語か、闇取引か。

 

私が週刊少年誌の編集だったら「後半に見せ場をつくろうとする意図は理解できるものの、主人公の旅立ち理由がいい加減で背景も見えず感情移入ができない、まずは基本となるキャラクター設定をしっかりと固めていただきたい」などと辛口のコメントを書いてしまいそうだ。

 

その他にも疑問は尽きない、猫住職はなぜ自分の寺を放り出して猫の姿でうろついていたのか、檀家はこのことを知っているのか、そもそも殴られる時に抵抗できなかったのか、意味もない暴力を振るう暴虐の権化たる小坊主がはたして素直におつかいに応じるものか、などと物語は疑問のバーゲンセール状態、話を聞いてる私もライバルに出し抜かれたベジータのような心情だ、くそったれ。

 

 

なんだ岡井って理屈っぽい野郎だな、素直に楽しめばいいのに、こんな面倒なヤツ絶対友達になりたくないぜと思ってしまった方もいるかもしれない。

どうか思い出してほしい、学生時代には国語の問題で『この時の作者の気持ちを述べよ』『この登場人物はなぜこうしたのか書きなさい』そうした問題が出てきたことを。この問題を解き続けた岡井少年は常に登場人物の気持ちや行動理由を考えるようになってしまった。

そう、純粋過ぎたゆえに、真剣に授業を受け続けたゆえに誕生してしまった哀しき国語モンスター、それが岡井少年だったのである。

 

なぜなに怖い話

怪談も様々なパターンがあるが超常現象過ぎて恐怖を感じられないものは多い、ここですこしまとめてみよう。

 

・◯◯で△△すると……系

トイレで花子さんを呼ぶと、何時にこっくりさんをすると、みたいなやつはそもそもなぜそんな行動をとるのか。興味本位、怖いもの見たさと説明されるがそれならば願ったりかなったりでむしろ嬉しいのではないだろうか。

 

「どうしても好奇心で花子さんに会いてェ!!」

「いたよ花子さんが!!」

「でかした!! ヒィ怖ェ!!」

 

でハッピーエンドだ、何も問題は無い。派生パターンとしてその手順を誤ると恐ろしい目に合う的な話もあるが、それはそもそもデーモンコア実験みたいなもの、世の中には失敗すると死ぬ仕事なんていくらでもある。

 

 

・出会ったら終わり系

ハァイ、ジョージィよろしく見たら死ぬ系の妖怪話は古来から存在しており、都市伝説系では口裂け女からくねくねまでといった系統。

 

あまり細かい描写はされないのだが、よくわからない化け物が不明瞭な因縁をつけてきてよくわからない攻撃方法で殺されるという説明放棄パターンがほぼ全てだ。細かいことは気にせずとにかく怖がれという怪談界をごういんなドリブルで走破する系統の話だ。うん、怪談とはそういうものなのか、考えるな感じろとあの世からブルース・リーが語りかけてきそうだ。

 

いつも思うがこういう話はどう考えて怖がればいいんだろう、この世には対処不能の即死攻撃を仕掛けてくる化け物がいるから気を付けろとでもいうのだろうか。

 

これじゃあ自動車がいきなり突撃してくるタイプの交通事故のようなものだ、理不尽ではあるが気をつけるにも限度がある。

 

 

・呪い感染パンデミック

リングにおける呪いのビデオに代表される分類、不幸の手紙とかゾンビパニック映画もここに分類される、怖いものがどんどん拡大するよ、次はあなたの番かもしれないよというヤツだ。

 

ただこれも根源的には出会ったら終わり系に近い、みてしまったら、触ってしまったらと条件はあるものの条件が整えば超常的な力で殺しに来るのだ。次に感染するのはあなたかもしれないという身近っぽい恐怖があるのかもしれないが、呪いのビデオだからみるなよなどと渡されては完全に前フリギャグでしかない、少なくとも私なら渡されたその場で視聴をはじめるに違いない、押すなよ押すなよと熱湯風呂にチャレンジするダチョウ倶楽部のそれである。

 

 

ここに分類されないパターンとして、夢の中や知らない街という不思議な空間に迷い込み、じわじわ身の危険を感じてもう危ないと思ったところで終わる話等が存在する。全体的に描写不足な物語が目立つが、気付いたら見知らぬ空間にいて不思議な体験をするというのは薬物乱用の幻覚症状ではないだろうか。

 

……いや待てよ、そうするとこれまでの怪談の行動原理に説明がつくかもしれない。そうか、そうだったんだ、小学校の時の話もこれならば納得できる。

 

謎はすべて解けた、私が推理した本当の話をお伝えしよう。

 

 

真説・猫住職

「小坊主よ、ちょっと“おつかい”に行ってくれないか」

 

秘密組織O-TERAのトップであるbozuから指令が下った。“おつかい”とは運び屋を意味する任務であり、幼いころから組織に育てられた構成員である俺にとって任務は黙って遂行するのみ、疑問を持つこともない。

 

O-TERAという組織は法を犯すこともいとわない何でも屋だ。そしてその下部構成員は小坊主と呼ばれ、一日の動きや食事内容まで徹底した管理のもとに置かれている。厳格な管理体制ゆえか、組織は裏切り者が全く出ていない鉄の集団と知られていた。

 

しかし任務を受けた俺はここ数日間誰かに監視されているような視線を感じていた。敵対組織のヤツらだろうか、いずれにせよこのままでは任務に行けない、先にケリをつけねば。監視者の正体を探るためにあえて人気のない森の中に入っていく。

 

相手の目的が監視ならば追ってきたところを逆に追い詰めてやる、もし殺し屋なら向こうから姿を現すかもな。そう考えながら歩を進めていると背後から視線を、そして気配を感じた。気配を感じた繁みに飛び込み対象を取り押さえる、その正体は意外なことに白い猫だった。

 

任務を前に気が高ぶっているようだ、こんな猫の視線を敵組織と勘違いするとはな。少々の安堵が生まれつつも小坊主は猫を手持ちの警棒で殴り飛ばした、無意味に痛めつける趣味は無いが、もし猫に懐かれでもしたらそこから足がつくかもしれない、組織の構成員としてそんなヘマをするわけにはいかない。

猫が繁みの中に走り去るのを確認すると、俺は明日に迫った“おつかい”に備えた。

 

任務はいたって順調だった、渡された風呂敷包みを指定された廃寺に、何のトラブルも無く指定の時間よりも早く到着してしまった。しかし妙だ、荷受人が待っていると聞いていたが周囲には誰もいない。指定された時間を過ぎても廃寺は不気味なほど静まり返っている。月も出ない闇夜、立ち尽くしていると生暖かい風が通り過ぎる。

 

気付くと本堂の隅、暗がりの中に住職の姿があった。いつの間に、この廃寺の住職だろうか、いや、取引相手であれば詮索無用、黙って風呂敷を渡せばいい。相手の出方をうかがっていると、住職はゆっくりと口を開いた。

 

「小坊主、自分の行動に疑問は無いか、闇の組織に身を置くことに疑問は無いか」

 

どうやら取引相手では無さそうだ、そして人生相談なら他所でやってくれ、そう思いながら俺は懐から礫を放った。怯んだ隙にこの住職を始末せんと接近するも、礫は住職の身体を手ごたえ無く通過し床に散らばった。

なんだ、妙な術を使うぞ。警戒していると、何事も無かったように住職が再び口を開いた。

 

「猫を殴る時に心が痛まなかったか、組織を抜けたいと思わなかったのか」

 

不思議な事にいつしか住職の姿があの時の白猫と重なってみえる、住職の言葉が響き、頭の中を駆け巡る、言葉を浴びせられる毎に鉛を乗せられたように四肢が自由を失う。

 

「本当は組織を抜けたい、こんな働きはもう御免だ、そう思っているんだろう」

 

やめろ、組織は裏切れない、組織は俺の全てなんだ、裏切ってはならない絶対的存在なんだ。ぐらついた拍子に手にした風呂敷包みを落としてしまい、空っぽの風呂敷が腐りかけの床板に広がる。

 

「それはお前の本心なのだ、お前はお前自身で考えねばならん、考えるのはお前だ!!」

 

頭が割れそうに痛い、もうやめてくれ。

 

――いや、自分で考える? そういえば俺は何故組織に忠誠を誓っているんだ、いつから組織が絶対だ考えるようになったんだ。そうだ、考えるの組織じゃない……

 

「「お前だ!!」」

 

 

 

 

 

O-TERAの地下室に小坊主の死体が運ばれてきた、担当の構成員達は淡々と処理を進めながら会話する。

 

「この小坊主は……ああ、危険兆候が出ていた個体か」

「洗脳が解けそうな個体に遅効性の薬品を投与して秘密裏に始末する」

「いつもの食事に混ぜられているとも知らずにな」

「今回もうまい具合に幻覚・幻聴にかかってくれたみたいだな」

「裏切り者は事前に始末する、これが我らO-TERAが鉄の組織である所以さ」

 

 

 

小坊主が最後にたどり着いた「自分で考える」という思考、それは薬品の影響からか、それとも……

 

 

 

 

たどり着いた真実

いつしか推理というより妄想になっている気がする、しかも中二っぽいやつ、何だO-TERAって、組織大好きか。

しかし怪談の持つおどろおどろしいイメージとは多少異なるものの、自分の知らないところで陰謀が渦巻き、思考を操作されているという恐怖は怪談テイストとは言えないだろうか。

そう、これを読んでいるあなたも、誰かに思考を操作されているかもしれませんよ……。

 

いやでも長すぎるなこれ、やっぱり子供に話すなら最初のやつにしよう。

 

 

 

怪談を推理したら中二病っぽくなった   終