おかいさんといっしょ

おかいさんが極めて個人的なことを吐き出すからいっしょういっしょにいてくれやみたいなブログ

月曜日には船守さちこのスーパーランキングと福永俊介のアタックヤングがあった

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タイトルの意味がわかる人は現在30代前後で過去、あるいは現在も北海道に在住している人であろうか。

 

その昔、私の傍にはラジオがあった。熱心に聴くというほどではなかったし、はがきを送るようなことも無かった。ただなんとなく当たり前のように存在して、スピーカーからニュースや音楽が流れてくる。多少色気づいてきた年頃とはいえ、子供の私にとってのラジオはそういう存在だった。

 

船守さちこスーパーランキング』は1994年から1999年まで北海道のSTVラジオで放送された生放送の音楽番組であり、スパランの愛称で当時の中高生を中心に支持を得ていた。番組構成は音楽ヒットランキング&リクエスト+ネタコーナーという番組だったが、パーソナリティである船守さちこ氏と福永俊介氏の小気味よい掛け合いに惹かれたように記憶している。メイン進行とツッコミ役のさっちゃんに、ボケと印象的なコーナージングルを担当する福ちゃんといった二人の個性も際立っていた。

 

当時のエンタメ分野における音楽の強さは相当なものであり、CDは毎年100万枚セールスが連発され、小さな町にもそれなり以上にCDショップが存在した。小室ファミリー沖縄アクターズスクール、バンドブームといったムーブメントがテレビやラジオで連日取り上げられる等、意識せずともヒットソングが耳に入ってくる、J-POPが日常の風景であった時代。私もそれほど音楽に熱心というわけではなかったが、ヒットチャート上位は常に把握しており、レンタルCDショップのセール日にはまめに足を運んだものだった。

 

いつしかお年玉で買ったケンウッドのCDラジカセを、スパランが流れる1440kHzにチューニングする習慣がついた。

 

今回はそんなスパランの思い出をなんとなく綴っていきたい、情報ソースは私の思い出というひどくあやふやなものなので間違っているかもしれないが、ごく一部の人には刺さる内容だと思っている。ゴリゴリの下ネタが登場することもあって好きな人にはたまらない内容だとも思ってる。

 

ブリーフとトランクス

スパランは北海道ローカル放送ということとリクエスト票の割合が多かったからか、ランキングがやや特殊になることがあった。番組内で紹介された珍曲がランク入りしたり、いわゆるビジュアル系バンドの曲が異様に強かったりと、道内ではスパラン発生でブームを作っているようなふしもあった。

 

その一つがブリーフ&トランクスの『青のり』一大ブームである。『青のり』は「彼女の前歯に青のりが付いている」といった珍妙な内容の曲であり、決してマイナーソングではないものの、コアな人気という表現がしっくりくるというか、ともかくミリオンヒットが並ぶランキングトップの争いに加わる曲ではなかった。

 

しかしスパランでは人気絶頂の安室奈美恵GLAYと並んでブリーフ&トランクスが上位に入り込んできた。コミカルな曲調が番組リスナーにウケてリクエストが殺到したのである。今週の1位は何だという話題にのぼり、英語タイトルのカッコイイ曲が並ぶ中に突如放り込まれる青のり。北海道はどうかしてると思ったが、その数年後に『だんご三兄弟』が日本中で売れまくるので、どうかしてるのは日本全体だったことに気づいた。

 

やりたい放題DJと乾いたドラえもん

これは正式な番組コーナーではなかったように記憶しているが、たまにリスナーによる番組形式での曲紹介やトーク、いわゆるラジオDJごっこ的なものを収録したカセットテープが送られてきて、それ一部放送しつつパーソナリティの二人がイジったり応援したりすることがあった。

 

もっとも将来ラジオDJを目指す少年少女を微笑ましく応援するコーナーというよりかは、イジられてナンボというような雰囲気もありどんどんおふざけ方面にエスカレートしていったのだが、稀に出現する猛者にリスナーは色めきだった。

 

初期の頃はそれこそ真面目に曲紹介をしたり、音楽に合わせてトークをする投稿が続いていたのだが、次第に曲や効果音も自分で賄ってしまう「全部俺」スタイルが主流になる。そしてトーク内容も次第にイカレてくる傾向にあり、「河原でエロ本なんか探してないで、もう川自体を見つめながらオナニーできればキミも上級者だ、それでは曲いきましょう、美空ひばり川の流れのように」みたいな脳にバイキンでも入ってるんじゃないかという素晴らしい投稿が出現しはじめた。

 

そしてその流れの一つの頂点が「乾いたドラえもん」である。字面のみでは全く理解できないと思うので少し説明するが、「乾いた」の部分はL'Arc~en~Cielのヒット曲『HONEY』のサビ部分である。対して「ドラえもん」の部分は曲のフシをつけるわけでもなく、ただ簡潔にドラえもんと発する。これが脈絡なく曲紹介に挟まれてくると思ってほしい、「それでは聴いてください、HONEY──乾いたぁ!!ドラえもんっ……」という具合だ。意味が分からないと思うが大丈夫、説明してる方もわかっていない。

 

これがなぜか当時の私のツボに入り、部屋で痙攣するほど笑い転げた、意味不明過ぎて斬新だった。力強いサビの歌い出しから突然冷静になる落差、かっこいいバンドの曲から突然繰り出される藤子F謹製ロボット、乾燥した青タヌキというビジュアルイメージのシュールさ、いずれも私の記憶に強烈に残った。

放送の次の日に学校で数人に話したが、これに共感してくれたのはクラスの秀才ミヤモト君だけだった。私たちは固い握手を交わした。乾いたドラえもんで男たちは繋がったのだ、脳内ではドラえもんが「うぅふぅふぅ(cv大山のぶ代)」と笑っていた。

 

DJごっこはやりたい放題ぶりがエスカレートし過ぎた結果危険な領域に突入、乾いたドラえもんというワードの衝撃は今も忘れられないし、これは放送を聴いていた人の中でもさらに一部しか共感できないと思う。真面目に考えると聞き手をおいてきぼりにしている時点でラジオDJとしては致命的だとは思うが、 それ以上にHONEYを聴く度にドラえもんが浮かんでくる変なイメージを植え付けられたリスナーもある意味致命的であった。私が当時人気絶頂であったラルクにそれほどハマれなかった理由、それは乾いたドラえもんのせいかもしれない。

 

出たがり中学生と凍てついた番組

番組内でリスナーがカラオケ対決をするコーナーがあった。カラオケ機材もマイクも無い、携帯電話がそれほど普及していなかったこともあり、家庭の電話口で歌う参加者も多かったコーナーである。家族から見られたらわりと恥ずかしいのではと余計な心配をしてしまうが、チャンピオンになると大きなホールでライブができる特典があった。

 

コーナーは「出場者紹介」→「1コーラス歌唱」→「審査&勝敗決定」→「総評」という流れで進むのだが出場するのはシロウト中高生、緊張からうまく歌えなかったり、気合を入れ過ぎてスベってしまったりする出場者も微笑ましいものだった。

 

そんなある日、お調子者出場者がやらかした事態で番組は騒然となる。いつものように出場者紹介が進められ、さっちゃん福ちゃんが出場者に意気込みを聞いていた一幕。「福ちゃん、ちょっといいですか?」と出場者が時間を求めてきた。気合を入れたコメントでもするのだろうか、福ちゃんも「ん、なにー?」と調子を合わせながら次の言葉をうかがう、そして一瞬の間をおいてラジオのスピーカーから参加者の絶叫が流れる。

 

「お○んこー!!」

 

…………この空気、想像できるだろうか。誰も何も話さないし、当然笑ってもいない。ラジオを聴いていた私も「うわぁ……」と思わず声に出してしまった地獄絵図である。

そうしていると福ちゃんが重い口を開いた。やっていいことと悪い事がある、リスナーはキミの友達だけじゃないから聞きたくない言葉もある、出演に際して注意を受けたはずなのに何故守れなかったのか、という内容を大人の言葉で話し、件の彼はそのままフェードアウト。「えー、今彼はプロデューサーに怒られてます」となんとか笑い話にしようと努めるパーソナリティ二人にプロの仕事をみた気がした。これほど乾ききった空気をなんとかできるのは、それこそドラえもんだけかもしれない。

 

できないことを活かすこと

表現力という意味ではラジオは時代遅れのメディアと言ってもいい。取り扱えるのが音声のみであり、それも特別高音質というわけでもない。しかし表現力が限られているからこその手軽さもあり、ながら作業がしやすいラジオは今も昔も作業や勉強の友であると考えると興味深いものである。

 

カメラ収録や編集が存在する動画よりタイムリーな話題を出せる、どぎつい表現も音声のみだからマイルドにできるという強みもあるだろう。個人で動画も配信できるようになったこの時代、ラジオの放送にチューニングを合わせ、ハガキ職人やメール職人と呼ばれる熱心な投稿者が集う、これは一種異様な光景だ。

 

なんでもできる時代だからこそ、できないことを活かすという視点が必要なのかもしれない。装備が十分でないからやらないのではなく、少ない武器で戦う方法を考えてこそ、むしろそれを強みまで昇華してこそのクリエイターなのだ。

 

ただ気を付けて欲しい、間違っても「お○んこ」と叫んではいけないし、それを活かそうとしてもいけないということを。そして気にしないで欲しい、アタックヤングに一切触れていないことに。

 

 

 月曜日には船守さちこスーパーランキング福永俊介アタックヤングがあった   終わり