おかいさんといっしょ

おかいさんが極めて個人的なことを吐き出すからいっしょういっしょにいてくれやみたいなブログ

雑な友人が北海道の青い池に私を導く

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ここがどこなのかは正確にはわかっていない

「道央に行こうよ、車手配と運転は頼むね」

 

「サッカーしようぜ、お前ボールな」みたいな感じに友人から誘いを受けた。道央とは北海道中央部のことであり、今回は富良野・美瑛エリアあたりを指してそこに観光に行こうとの誘いだった。この友人は異様にアクティブなので度々どこかに行こうと誘われるのだが、毎回何も準備をしてこない人だ。今回も話を聞くと詳細なプランは何も決めておらず、レンタカーを借りたり運転する役目だけが私に決まっていた。これが雪山登山とかであれば遭難確実のため断固拒否するところだが、車で観光地を移動するだけらしいのである程度適当でも問題なかろうと話に乗ることにした。

インドア派な私は休日も一人部屋で過ごす日々が続いており、外出のきっかけとなるこうした友人の雑な誘いもありがたいものだった。ちなみに友人は運転免許を持っていないため、私のことを思ってというより交通手段としていいように使われていた可能性も無くはない。もしそうだとするとショックで泣いてしまうので考えないようにした。

 

 

富良野・美瑛というエリアは昔から北海道の主要観光地の一つとして知られ、幼少期に札幌在住だった私はラベンダー畑が見たいという両親に連れられ幾度となく訪れた地だ。

幼い頃の私は非常に乗り物酔いしやすかった。汚い話で恐縮だが、札幌から3時間ほどかけて向かう車中では毎回吐いていた、ラベンダーよりも紫色ではないかという顔色でのたうち回っていた。そうしてゲロまみれでたどり着いた富良野のラベンダー畑では、備え付けられたスピーカーからさだまさしの『北の国から』がエンドレスで流れており、朦朧とする意識の中でラベンダーの香りとさだまさしの歌に包まれるという幻想的なのかなんなのかよくわからない空間をさまよっていた記憶がある。ここがあの世ですよなどと言われたら、なるほどそうなのかと信じてしまいそうだった。

おかげで幼少期はラベンダーの香りが苦手だった、今はそれほどではないにしろリラックス効果があるという説には懐疑的だ。幸いにもさだまさし氏はそれほど苦手ではない、得意でもないけど。

 

そうした思い出もあり、正直に言えば富良野・美瑛というエリアに対してあまり良い印象は持っていなかった。そもそも子供にとっては雄大な景色を観賞することよりもドラゴンボールのアニメを観賞する方がよっぽど価値があるので、なぜこんな苦しい思いをしてまで富良野・美瑛の景色を見るんだ、家でテレビが見たい、お母さんはちょっとどうかしていると本気で思っていた。

 

しかし今回は行先だけを決めた誰に追われるでもない旅、自分探しなどと青臭いことを言う年齢でもないが、出発前日には久しぶりに訪れる地が楽しみになってきた。

 

 

当日待ち合わせ場所に車で行くと友人の姿はどこにもなかった、旅の始まりから自分探しどころか友人探しである。とは言えいつも待ち合わせに遅れてくるやつなので、特に気にせず先にカーナビをセットした。札幌から富良野経由で美瑛に向かうコースを設定すると、距離にして約180km、所要時間は3時間30分となっていた。高速道路も途中までしか無く、基本的に山道を走るためにこういう時間になるのだ。

そうこうしているとスマンと大きな声を発しながら友人が乗ってきた、一応謝ったとは言え助手席でドンと腕を組み特に悪びれるふうでもない、こいつは麦わらのルフィではないかと時々思う。

 

 

とりあえず友人が勧める美瑛の青い池を見に行くということで目的地が定まり、車を走らせる。基本的に山の中を進むルートではあるが、時折広がる国道沿いの風景には私が子供の頃の記憶よりも随分とお店が増えていた、その中でもソフトクリームがやたら目に付くことが多い。酪農が盛んな土地柄ということもあるだろうが、高速のサービスエリアや道の駅、道路脇に建っている掘っ立て小屋みたいなところもよく見ればソフトクリームと書いてあったりする。私が子供の頃にこうであればもっと楽しく道中を過ごせただろうに、くやしいのでそこらじゅうでソフトクリームを購入し舐めまくってやった。

 

 

甘さと冷たさをむさぼりながら目的地に到着した。到着と言っても国道沿いにいきなり池が広がっているわけではなく、観光用に案内板と売店がある駐車場が用意されているので、青い池を目指す人たちはまずここに車を止めて徒歩で移動することになる。

 

お腹もすいてきたので私はここの売店で食べ物を求めた。

 

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ご当地グルメであるジュンドッグ

旭川・美瑛地区のソウルフードらしいジュンドッグというものを買ってみた。旅先ではその土地の名物や他では食べられないものに出会うのも醍醐味、私も出張先などでは積極的に初体験となる食べ物を注文するようにしている。

ジュンドッグの中身はエビフライやソーセージを米でロールしたものであった。太巻きの海苔が無いものを想像してもらえればわかりやすいだろうか、そのネーミングはパッケージに記されている純平おじさんのホットドッグに由来しているものだろう。おじさんのホットドッグを美味しくいただいた、などと書くと別の意味を持ってしまう気もするが、具とお米の相性が良いので皆さんにも一度お試しいただきたい。

パッケージを開けたところを写真に撮れば良かったのだが、当時は誰かにジュンドッグの説明をすることになるとは考えていなかったため写真はこれしかなかった。

 

気付くと小雨が降ってきた。晴れた方が池は綺麗に見えるとのことだったがこればかりは仕方あるまい、ジュンドッグをもりもり食べた後に駐車場から青い池にもりもり進む。オフシーズンだったはずだが、団体で訪れる海外観光客なんかもおりなかなかの賑わいだ。森の中にある青い池を求めて歩みを進めるなんて幻想的なロケーションだが、実際は周りをとりかこむアジア系の観光客とおぼしきマダムがめちゃめちゃ大きな声で会話しているのであまり幻想という感じでもない、森の場外市場といった雰囲気だ。

 

砂利道を5分程度歩くと池を確認できるスポットにたどり着いた。

 

 

 

 

 

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青い、圧倒的に青い。

 

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森の中に突如出現する青い池。この青さはたしかに心動かされるものがある。

聞くところによると晴れた日だとより青さが強調されて綺麗に見えるらしいが、小雨のおかげで霧が出たこの情景もなかなか幻想的なものだ。さっきは場外市場とか言ってごめんなさい。

 

 

一体この青さはなんなのだろう、美瑛の森が生んだ奇跡のファンタスティックだろうか。そう思っていると付近にこの池について記した看板があった。未知との遭遇に少年の心を取り戻した私は目を皿にし、まるで古文書のように一文字づつ読み解いた。

 

 

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 結論から言うとこの青さは水中に含まれる微粒子が太陽光と衝突散乱した結果青く見えると言われているらしい。そもそもこの池自体が災害防止のためにコンクリートブロックを積み上げたら、そこに水が溜まり偶発的に池になったものだそうだ。
確かに古来より伝わる池とかならちゃんとした名前がありそうな気がするが、青い池という飾り気のない名前にはそういう理由があったようだ。なんだかまた幻想や神秘といった要素から離れてきた気がする。

「青い、青いぞぉ!! わぁい!!」

横にいた友人が無邪気にはしゃいでいた。ここに来るのは初めてではないにもかかわらず、まるで少年のようにまっすぐな瞳で人造池を眺めていた、30も過ぎた大人がどうしてそんなにテンションを上げられるんだ。

いや、ひょっとしたらこの友人が正解なのかもしれない。そうだ、素晴らしい景色が目の前にある、それで十分じゃないか。神秘的であれば素晴らしいとか、有名な画家が描けば良い絵だとかそういうことではない、目の前にあるこの景色は間違いなく良いものなのだ。澄んだ空気と豊富な自然、これこそが北海道旅行の醍醐味だ。


うん、来てよかった。そう思って車に戻ると、友人はまだいいところがあるから連れて行ってやると言い出した。いいところとは一体どこだろう、ひょっとしてえっちな店だろうか。連れていくと言っても運転するのは私なのだが、とりあえず指示に従って車を走らせた。

 

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白と青のコントラストが美しい 白ひげの滝

  
いいところにたどりついた、青い池から車で数分でたどり着ける白ひげの滝である。ここは橋の上から見ることになるので池ほど近くでは無いが、青い池と同様に綺麗な青の流れと白い滝とがまざりあう絶景スポットである。素晴らしい景色にはしゃぎまわる友人、麦わらのルフィと白ひげの邂逅だ、無理もない。

滝のすぐ近くには白金温泉があり宿泊施設も整っているので、宿泊込みで青い池をと考えている人にも良いだろう。

 

 

絶景の連続に大変満足した私もそろそろ帰路につかなければいけない時間だと気付いた、なにしろここからまた3時間かけて帰らなくてはいけないのである。そろそろ時間だと伝えると、まだいいところがあるから連れて行ってやると友人が言い出した。なんだこれ、デジャヴか、ひょっとして今度こそえっちな店だろうか。

 

言われるがままに車を走らせ数分後、今度は何もない山道で突然車を降りるように言われた。え、何だこれ、何が起きるんだ。あれか、人気が無い所に連れ込んでオマエ自身がえっちな店だよというオチか。警戒して身構える私を横目に、道路わきから藪に入っていった友人が早く来いと手招きしている。

 

そうはいくかドすけべ野郎と言うより早く、友人はどんどん森の奥に進んでいった。よく見ると雨の影響で足元がぬかるんで泥だらけになっているが、そんなの関係ねぇとばかりにはるか前方を進む友人、わんぱくが過ぎる。歩いてみるとわかったことだが、一応人通りはある道らしく、途中にあった祠のようなものもしっかり管理されていたので入ってはいけない場所では無いらしい。

 

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山の中の清流

ここがねぇいいところだよぉと言いながら友人は川に手をいれてバシャバシャしていた。なるほど確かにここもいいところだ、青い水のような特異性こそないものの、山を静かに流れる川のほとりというのも気持ちがいい。観光地として扱われていないのだろうか、私と友人の二人しかいないという環境も喧噪を忘れさせてくれる。

 

その成り立ちを考えると、偶然であったとしても“作られた名所”が青い池であり、“見やすく整備した自然の名所”が白ひげの滝であり、最後に見た清流はほぼ“自然のままの名所”であった。そして肩書なんてどうでもいい、全て良い場所だったと思う。

 

人は水に触れるとわくわくするのはなぜだろう、水と共に生きているという生命の根源のようなものなのだろうか。友人とは特に何かを話すでもなかったが、今回の旅で水の流れに触れ、文字通り心が洗われたような気がした。美瑛の青い池とその周辺は、わずかな距離で多様な水辺を楽しめる素晴らしい場所だ。

 

 

そして帰り時間がレンタカー屋の閉店時間ギリギリになってしまい、青い池よりも青い顔をして運転したのが私であり。ラジオからはさだまさしの曲が流れていた。