おかいさんといっしょ

おかいさんが極めて個人的なことを吐き出すからいっしょういっしょにいてくれやみたいなブログ

性欲隠さぬラブソング

 

仕事の移動中、車内ではよく歌を歌う。

 

本当はラジオとかCDとかアップルなんとかを聴きたいのだが、私が会社から支給されている営業車は集中ロックもパワーウィンドウも無いオンボロ軽自動車であり、直前にいろいろ補修してなんとか車検を通しているというエキサイティング仕様だ。

当然装備品は望むべくも無く、テレビやカーナビどころかラジオすら無い。吉幾三氏のようにオラこんなクルマ嫌だと言いたいが、嫌なら歩いて行けと言われるだけなので言うだけ無駄なのも知っている。

 

そうした事情からのセルフミュージックであり、岡井劇場であり、軽自動車の中でおっさんが熱情の律動なのだ。ヘェーラロロォールノォーノナーァオオォー。

 

好きな歌手の曲を歌うこともあるが、基本的には思いついたことをそのまま口ずさむ、ミュージシャンの方が「曲が降りてくる」というのはこのことだろう。何も考えていないとも言えるが、「降りてきた」方が圧倒的に格好いいのでそういうことにする、いともたやすくシンガーソングライターの仲間入りだ。

 

そんなある日、ふと思いついた私はtwitterで反応をさぐることにした、オカイソングへの関心はいかがなものだろうか。これは音楽業界の未来をうらなう意味でも極めて重要なファクターだ。

 

 

 

 

 

 

意味不明な質問に30人も解答いただけたのがありがたい、そしてクイズと言いながら何を選んでも正解であり、全部実際に作った歌だった。

 

こんな変なタイトルの歌はおかしいだろうか、いや、決してそんなことはない。

歌の基本はやはり自分の気持ちを込めること、魂の叫びと言ってもいいメッセージだ。放送コードや売れる音楽性など関係ない、誰かに借りてきた耳障りの良い言葉の羅列では人の心は動かない。

 

30人への感謝とともに、ここに「性欲隠さぬラブソング」の歌詞を公開しよう、男の子のピュアな衝動が込められたせつない歌詞を思う存分堪能して欲しい。

 

 

 

■性欲隠さぬラブソング■ 唄:岡井モノ

 

はじめて会ったその日から キミに瞳を奪われた

窓から差し込む日差しよりも ボクの心とカラダの一部を熱くさせた

 

その笑顔がまぶしくて 思わず視線を下げたね

薄着の季節は目に毒で 脳のHDが足りないよ

バズーカーみたいなカメラを買って 海に行こうと誘ったね

 

お願いだからやらせて欲しい 一度だけでもいいから

いつもキミを考えている 寝てる間も夢に出てきた

お願いだからやらせて欲しい キミのカラダが目当て

 

その視線がせつなくて よく前かがみになったね

ファッションセンスも抜群で 短めのスカートによろめくよ

足を長くみせるためとか言って 執拗にローアングルをせまったね

 

お願いだからやらせて欲しい いっそいくらか包むから

キミのことを考えると 夜も眠れず昼寝るよ

お願いだからやらせて欲しい 先っちょだけでもいいから

 

お願いだからやらせて欲しい 一度だけでもいいから

いつもキミを考えている 寝てる間も夢に出てきた

お願いだからやらせて欲しい キミのカラダが目当て

 

季節が何度変わっても キミへの気持ちは変わらない

もう目をそらさない いやらしい視線でまっすぐに

 

お願いだからやらせて欲しい 一度と言わず二度三度

ボクはなんだってする だからなんでもやらせて欲しい

お願いだからやらせて欲しい キミが大好き

 

 

 

音楽関係者の方、オファーお待ちしております。

光を求める僕たちに無慈悲なコウヘイ君の洗礼

 いわゆるネットの世界というのは、ここ数年で驚異的なスピードで進化した。情報は手軽に入手できるし、買い物やコミュニケーションも端末を少し操作すれば成立する。

私が子供の頃は、ポケモン仲間のコウヘイ君から通信ケーブルを通じて送られたゲンガーに胸を躍らせたものだが、いまや無線かつ世界中の人と通信できるらしい。ちょっと目を放した隙に猛烈に進化してるのがネット環境だ、そのうちゲンガーどころか本物の怨霊とか送れそう、『Wi-Fi怨霊』とかB級映画のタイトルみたいだ。

そんなネット社会がゆえに今は情報が溢れており、多くの情報はただそこに置いておくだけでは埋もれてしまう。発信はできるけれど……と頭をかかえる人も多いのではないだろうか。

 

■もんすたぁ☆レース

自分の作品を誰かにみてもらうというのは、簡単でありながら同時に困難な状況にあると思う。いや、世に出すだけならば簡単だ、しかし誰かにみてもらいたいということは誰かの反応を知りたいということに他ならない。みるだけでなく作品評判が良いのか悪いのか知りたい、それもできれば褒めてもらいたい、高く評価してほしいという気持ちがそこにある。もし他人の反応が本当にどうでもよくて、価値を求められないものならば発表する意味自体が無いだろう。

しかしSNSなどで自分の作品をアピールしようにも、既に地位や人気のある人でなければなかなか広まらない、それが本当に良いものであってもだ。

有名小説投稿サイトなどは数分おきに新作が投稿されている状態で、人気ランキングの上位はやはり過去から一定以上の評価・ファンを獲得している人が不動の存在となっている。さらに時折開かれるコンテストは、読者からの評価ポイントが高いものしか審査対象にならない。

多くの人が集まる賞レースは人数を絞るための予選があるし、限られた審査員に何千という作品を評価しろというのも無茶な話なので、いずれにしても評価のテーブルに乗ること自体がかなり難しいことなのだ。 賞レース参加権をかけたレースの予選レースからクリアする必要があると言えばいいだろうか。

 

 3割こおりとかいう狂った性能

ではどうすればいいのか、無名の自分が名前を売るにはどうしたらいいのか。ポケモンだってレベル5のヒトカゲをチャンピオンリーグにブチ込んでみても勝ち抜くことはできない、完全に出オチだ。コウヘイ君のフリーザーが無慈悲なふぶきを連発してくるトラウマが甦る、相性とか関係ないバグみたいな強さの前に瞬殺されるのみだ。

まずは適切な戦場を選択せねばならない、突然学校を占拠したテロリストに能力者としての力が目覚めた俺が立ち向かい特に理由も無く超強くて女の子にもモテモテ、という病的なライトノベルを小説サイトに投稿してみてもpv数が増えない、それならば芥川賞を狙えば評価してもらえるかというとそんなわけない、というかその内容だったら選考対象にもならない、どうかしてる。

自分に最も合った場所に応募・発表すべきであるというのは創作者としては基本ではあるが、何が自分に最も合っているかは自分で探すしかない、ググってみて一覧があったとしても選択するのは自分なのだ。

とはいえなんらかの反応をと考えると、複数の人が点数なりコメントをつけてくれる場所があれば良いと私は思う。

 

■「フラッシュは使えない」と断言した攻略本には子供ながら容赦ねぇなと思っていた

はっきり言ってしまえばこのブログに宣伝効果は無いに等しい、一日のpv数なんて1桁だし、たまに0の時すらある。

それでも私は眠れる可能性が現れることを期待している、誰のためでもない、自分が楽しみたいから、私に面白いものを見せてほしいから、これまでこのブログには直接書かなかったパチ7へのリンクを掲載しよう。 

pachiseven.jp

 

 賞金100万円や単行本出版の約束は無いけれど、みてくれる人達がいます。少なくとも私はちゃんとみます。それほどパチンコ・パチスロに密接した内容でなくても良いはずです、それらが嫌いでなければ是非挑戦してみては如何でしょう。

 

エントリー締め切りは3/27、これを更新しているのは3/27。。。

 

「慈悲は無い」

 

私がくりだしたゲンガーを速攻で氷漬けにしたコウヘイ君の言葉である。

おもいおもいのカゲキ

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やぁ こんばんは おかえりなさい

 

こ、こんばんは、あなたはだあれ?

 

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ワタシはカゲキ キミのかえりをまっていた

 

私になにかご用ですか?

 

キミをまつのがワタシのようじ おかえりなさいとつたえるえるようじ

それイジョウはないけれど ひとつウタでもウタいましょうか

 

せっかくだけど気分じゃないの、用がないならもう寝るわ。

 

ざんねんざんねん このじまんののど ヒロウしたかった

 

 

 

 

 

おかえりなさい

 

あら、ええとあなたは……

 

カゲキです、ずっと前からここにいますよ

 

そうだカゲキさん、今日は何のご用?

 

キミのかえりをまつのがしごと それイジョウでもイカでもないよ

 

へんなお仕事、私を待つのが大事なの?

 

ええとても

 

じゃあカゲキさんの今日のお仕事は終わりね、私帰ってきたもの。

 

そうですね でもよかったらサービスでモノマネをおみせしましょう

 

せっかくだけど気分じゃないの、用がないならもう寝るわ。

 

ざんねんざんねん またのキカイにヒロウしましょう

 

 

 

 

 

おじょうさん どうしましたウカナイかおで

 

今日はちょっと嫌なことがあったわ。

 

いけませんねそれは イヤなことにキモチをとられるのはつまらない はやくおウチにかえりましょう

 

あら、なぐさめてくれるの?

 

なぐさめているワケじゃない キミのかえりがまちどおしいから ジャマするモノはないほうがいい

 

私を待ってどうするの?

 

どうもしません キミのかえりをまつのがだいじ かえってくることそれがだいじ

でもひとつ ユカイなおはなししましょうか とびきりひょうきんなイキモノのおはなしを

 

せっかくだけど気分じゃないの、用が無いならもう寝るわ。

 

ざんねんざんねん ユカイなおはなしおもしろおかしくかたりたかった

 

 

 

 

 

 おや ひどくおつかれのようだ

 

最近ちょっと忙しくって、あなたはいいわねそこにいるのが仕事ですもの。

 

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ワタシはおおくをもとめない キミがかえってくればいい

 

でもただ待つだけだと退屈じゃないの?

 

まいにちちがうキミがかえってくる ここからみえるけしきはまいにちちがう

 

だれかにほめてもらったり、ご褒美が欲しくはならない?

 

キミがかえってくるのがうれしいから それがいちばんだいじなこと

 

 

そう、ところであなたのお名前は?

 

ワタシはカゲキ そうだ おちかづきのしるしにいっきょくウタいましょう

 

……そうね、それもいいかもしれない、今日はそんな気分かも。

 

 

 

 

 

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ワタシはカゲキ おもいおもいのカゲキ

私の上司は怒りの化身

オガ主任はいつも怒っていた。

世界に対して怒り、家族に対して怒り、自分の人生に対して怒っていた。

 

天然キャラの同僚スギモトさんは、よせばいいのに「なんでそんなに怒るんですかぁ?」と質問し、案の定滅茶苦茶な罵声を浴びせられ泣いていた。

オガ主任は怒るために生まれてきたんだろうか、何もかも気に食わないといわんばかりのふるまいは、「許るさーん!!」という誤植怒りで有名なギース・ハワードも裸足で逃げ出すフェイタルフューリーだった。

 

■憤怒生まれのオガ主任

オガ主任は私が新卒で務めた会社の主任であった女性である。小学生のお子さんがいる既婚者だが、他の営業マンと変わらぬ仕事ぶりだった。

単独で動くことが多い部署だったので実際の仕事ぶりはよくわからないものの、実績数字もそこそこで大きなミスをしたということも聞かなかった。そして本社の幹部にも顔が利くらしく、たまに会議等で一緒になるとにこやかに談笑している姿もみられた、会社としては優秀な人材だったのだろう。

 

しかしその笑顔は支店勤務の我々に向けられることは決して無かった、オガ主任は本当に常に怒っていた。

同僚や部下のミスで怒るのは序の口で、お土産品のセンスが悪いとか会社行事の日程が都合悪いとかそんな理由でも怒っていたし、私も新人歓迎会でサラダより先に刺身を食べるのはマナー違反という理由でいきなり怒られた、出された順序で箸を付けただけなのに意味がわからない。さらに翌日は息子さんがしまじろうのビデオ視聴が好き過ぎるということでも朝から怒っていた。いや、しまじろうくらいみせてやれ、小学生の息子に「腹立つわぁ」とか言うな。

 

もちろん私は決して口を挟まず、同意を求められた時のみ「そうですねぇ」「困りましたねぇ」とあいまいな返答をする、これが平和かつ円滑に仕事を進める社会人の姿だと学習していった。

 

 

■煮えたぎる怒り

「オガさぁーん、たまごっち具合悪いんだけどなんとかならない?」

 

空気が読めないことで有名な経理部のトダ部長がやってきた、いきなりたまごっちとか何を言ってるんだこの人は。

 

「イヤワカラナイ、ワカラナイデスネ」

 

険しい顔をしながらも決してトダ部長の方を向こうとせず、ノートパソコンの画面に視線を集中して対応するオガ主任。眉間にシワが寄りまくっており、見栄を切る歌舞伎役者みたいだ。

 

「いやー娘に世話頼まれたのに、どうしようこれどうしようねぇ、ねぇ?」

 

すでに歌舞伎を終え、ナマハゲさながらの形相になりつつあるオガ主任に気付いていないのか、トダ部長は止まらない。部長の方が役職的には上なので、ながら対応をする主任はちょっと失礼なのかもしれないが、まぁ内容が内容なので主任に同情もする。そして執拗につきまとう部長にオガ主任がキレた。

 

「だからわからないって何度も言いましたよねぇ!! 聞いてます? おいなぁ、あぁん!?」

 

机を叩いて立ち上がり抑えていた感情をいきなりぶっぱなす主任、この人はこれが怖い、「あぁん!?」って言いながらすごむ姿は昔のヤンキー漫画みたいだ。

常に怒ってはいるのだが発散するときが突然過ぎる、1速と6速しかない車みたいな無茶な設計をされているので一旦始まるといきなり怒りのボルテージはトップギアだ。残り少ないトダ部長の毛髪が吹き飛ばんばかりに怒り暴れる姿は青森ねぶた祭りの山車灯篭を思わせた。

 

そしてその日、トダ部長の心とたまごっちは死んだ。

 

 

 

■無差別な怒り

オガ主任は容赦がない、怒る理由もよくわからない。

会議の時に課長から時計回りに意見を聞く流れになった時にも突然フルスロットルだ。

 

「なんでいつもアタシに聞くのっ!? 嫌なんですけど!!」

 

会議室に響いた声にみんなキョトンとする。意見を出させてもらえないならいざ知らず、主任の考えをと促されてこの流れだし、どのみち全員の意見を聞く会議なのにである。会議をとり仕切る課長は、じゃあ逆回りで聞いていこうと軟着陸を試みる。

 

上司ならば厳しく指導すべきでないかという考えもあるが、一度怒りだしたオガ主任は理屈よりも感情が上回り、獰猛な猿のように暴れまわるので手におえない。奇声をあげながらそこらじゅう走り回る猿を話し合いで解決しようと思っても徒労感が残るだけ、会議の空中分解という惨事を避けた課長の舵取りは正しいと言える。

 

もう新人も上司も関係ない、何がきっかけで爆発するかわからない一触即発のオガ主任は自然と孤立していった。そして直接声をかけなければ被弾は避けられたので、たとえ向かいに座っている状態であってもメールで連絡することが多くなった。

そして今日もメールソフトを起動して会話が始まった。

 

[お疲れ様です]

[今日の会議は~]

[それの案件は来週になりましたよ]

[えっ、本当?]

[さっき課長が電話でアポとりました]

 

ことわっておくがコレは会話しているわけでもチャットでもなく、社内で対面している人間同士のメールのやりとりであり、相手の顔が目の前にあっても目を合わすことなく、キーボードを叩く音だけが響いている。ネット回線を通じるとオガ主任が普通の人のように思えることも含めて現代社会の闇みたいな構図だ。

 

オガ主任が来るぞ

 

主任の気配を感じるとオフィスは一様に大人しくなり、お通夜のような雰囲気で主任を迎える。誰も何も喋らない、沈黙の歓待である。

 

 

■無謀な怒り

ある日、新人のタダノ君が主任との朝の打ち合わせに遅刻していた、遅れるという連絡も入っていないらしい。当の主任は別件の書類をまとめる作業をしていて一見おとなしい、しかし状況を理解している者はみなこれは荒れる、オガねぶた祭りの開幕だとハラハラしていた。

 

「あーすんません、なんか朝からハラ痛くてねぇ」

 

タダノ君がやってきた。なんだその態度、主任じゃなくても怒るぞそれは。

 

「……タダノ君、なんかアタシに言うことないの?」

 

うわ、オガ主任めちゃめちゃキレてる、なんか震えてるし。

 

「あ、主任大変申し訳ないッス、腹痛だけはどうにも――」

 

よせタダノ、その態度は死へのプレリュードだぞ、こうなったら頭丸めて土下座くらいしろ。っていうか主任のこと知っててよくそんなゴキゲンな対応できるな、自殺志願者か、変なクスリでもやってんのか。

 

「申し訳ないじゃねぇよぉコラぁ!! あぁ!?」

 

キングジムのファイルをぶちまけながら主任が立ち上がった、それはもう火を吐くドラゴンさながらの迫力、カードゲームだったらきっと盤面を壊滅させながら登場する大型クリーチャーだ。

 

《怒りの化身オガシュニン》

このカードが場に出た時、怒鳴り散らしながら相手のカードを好きなだけ窓から投げ捨ててもよい。

 

みたいな無茶な効果をもった高額で取引される伝説のレアカードだ。

 

「まぁまぁ主任そんなに怒らないで、怒りはなにも生み出さないッス、もっと建設的な話をしましょう」

 

ああ、タダノはクスリやってるわ、怒られてる当事者がする話じゃないだろそれ。ほらみろ、オガ主任怒り過ぎて奇声あげはじめたじゃないか「キィエアアアアア!! タダゥアノオオオオオオオ!!」って。

 

 

■永遠憤怒のオガ主任

このままだと死人が出る、誰か仲裁してあげないと。そう思ってるとスギモトさんが前に出た、不安しかないぞ大丈夫か。

 

「タダノくんその態度は駄目だよ、主任の気持ちも考えて」

 

おおなんかまともなことを、見直したぞ、ちゃんと先輩らしい対応ができるじゃないか。そしてさらに言葉が続く、がんばれスギモト。

 

「女性はいろいろ大変なんだよ、更年期とか」

 

馬鹿野郎スギモト馬鹿野郎。

この流れであの人は更年期だなんて言ったら怒られるのは自分にもわかる、たしか主任はまだ30代だぞ。スギモトさんの出した助け舟は泥船だった、それどころか火に油、松岡修造に速水もこみちだ。燃え尽きて真っ黒になれば松崎しげるだ。

 

オフィス内は焦土と化した。泣き出したスギモトさんは「泣くんじゃねぇ!!」って一喝されてまたメソメソする無限ループ、そして横のタダノ君は顔色がどんどんドス黒くなりながら闇に沈む地蔵と化していた、闇しげる地蔵の爆誕だ。

 

後にこの事件は「焦土の6月」と語り継がれることとなった。

 

 

 

翌日の出勤時、会社の玄関に入ると靴箱前にオガ主任が見えた。

……どうしよう、昨日の今日だしあまり関わりたくない、しかしこの状況で無視をしたなどということになればそれこそ問題だし、挨拶は社会人の基本。

ええいままよ、ここはとにかく元気に挨拶だ、オガ主任おはようございます!!

 

「…………岡井君ずっと後ろにいたの?」

 

ん? いやずっとと言うか、今来て、今主任に気付いたんですよ。

 

「……会社の入口まで一本道なのに、先を歩いてたアタシに気付かなかったと?」

 

あっハイそうなりますね、たまたま玄関で追いついたというタイミングで……

 

「先輩に挨拶もせんとコソコソ隠れてたのかオマエはぁ!!」

 

 

 

どうすればいいんだ、完全に誤解だけど、これを防ぐ手段は出勤経路を常に全力疾走しかないぞ。

 

ここは出口の見えないオガラビリンス、「焦土の6月」の犠牲者には私も含まれている。

この世に大切なのは相手を怒らせないことではない、怒る人に近寄らないことだと、あなたは教えてくれた。

 

 

 

私の上司は怒りの化身     終

フライングバルセロナ セイヤ君

人の行動原理とはなんだろう。

信念や欲望、本能や悲しみである場合もある。
それは一つではなく、場合によってもまた異なる。

小学2年生、まだ8歳だった私を動かしたのは、怒りと屈辱感だった。

 


■執拗セイヤ君

ダルシムが執拗にスライディングを繰り返してくる、起き上がるたびに転ばされる。
私の操作するリュウはおもしろいように地面を転がり続け、数秒後にはK.O.された。

当時大ブームだった『ストリートファイタ―Ⅱ』のスーパーファミコン版を対戦プレイしていた私は、持ち主というイニシアチブをえげつないほど発揮した同級生のセイヤ君に「ズルいぞ」と文句を言った。
手も足も出ず一方的に痛めつけられた屈辱、そしてそんな戦法を躊躇なく繰り出したセイヤ君への怒り、キリングマシーンと化し友情までも破壊せんとするセイヤ君への不信感は相当なものだ。

 

「これは戦略だ、相手の弱点をつくというのが勝負の鉄則なのだ」

 

どこかで聞いたような言葉でセイヤ君は続けた。

 

「俺も兄貴からのハメ技を耐えつづけファイターになった、くやしければゲームでやりかえせ」
(※「ハメ技」というのは回避困難な連携攻撃を繰り返すことを指す、猥褻な意味は含んでいない)

 

ファイターはダルシムであって、セイヤ君がファイターになったわけではないだろと思いながらも、確かにゲームのくやしさはゲームでやりかえすというのは一理あると感じた、愛読していたコロコロコミックでもゲームやミニ四駆で勝負をつけていたではないか。
そう思い私は武者修行に出る決意をした、小学2年生から修行を始めるなんて、岡井少年は漫画向きのキャラクターだ。


しかし残念ながら岡井家にスーパーファミコンは無かった。
数万円もするゲーム機など高嶺の花、自宅で練習することは不可能だ。
ダメもとで世代交代を終えたファミリーコンピューターの『ファミリースタジアム』という野球ゲームをプレイしてみたが、そこにはストリートファイトもインドもヨガもありはしない、「ぴぴ」がやたら活躍しているだけだった。

 


■陰湿セイヤ君

岡井少年は繁華街のゲームセンターに居た。
そこで稼動中のストⅡシリーズのプレイヤーの動きを見て、ダルシム攻略のヒントを得ようとしていたのだ。プレイもしないのに連日筐体横に立ち続ける子供はさぞ迷惑な存在だっただろう。

しかも街の腕自慢どもが扱うのは、ガイルというメリケン野郎キャラばかりだった。
あちこちの筐体からソニブーソニブー聞こえてくる、なにがソニブーだダルシムを出せ。どうやらこのガイルが強いキャラクターとして世間では認知されているようだった。

私もガイルを使えばあるいはとも考えたが、それだけではあの陰湿なスライディングの解決にはならない、ダルシムを攻略する姿を見せて欲しいのだ。

筐体横からじっと動かぬ地縛霊となった不気味少年が待つこと数時間、ついにダルシム使いが現れた、ガイル使いと対戦だ。

よしガイルよ、セイヤ君の最低下品スライディング戦法をぶっ潰す手段を見せてくれ。

 

ファイ!! バシーン!! バシーン!! ドゴォ!! ヨガーフレイ ウーワウーワ

 

ガイルが負けた、いや負けるんかい。
あの忌まわしきスライディングも見事に決まってしまい、なんの参考にもならない。

 

「せんしとしての ほこりが おまえにはあるのか!?」

 

鼻血を出すガイルのグラフィックを横にダルシムと勝利セリフが表示される。
間合いの外からボコボコにしてくるヤツが戦士の誇りを語るなど、twitterなら炎上案件である。

 


■暴虐セイヤ君

しかし街の腕自慢達を観戦しているととあることに気付いた。
ダメージを受けることなく防御できる「ガード」の存在である。
これはセイヤ君も使っていなかったムーブであり、とび蹴りや足払いをガシガシと防御して反撃の隙をうかがえるものだった。「ガード」! そういうのもあるのか。

 

そう思っていた矢先、対戦が続く画面上ではスライディングをガードしたリュウダルシムに巴投げを決めていた。あのお下劣スライディングもガードして反撃できる、孤独のファイターであった岡井少年に新たな戦略が誕生した。

 

画面上のリュウはさらに驚くべき動きを見せた。
なおもスライディングでせまるダルシムを跳び上がりアッパーカットで迎撃したのだ。
僕もこの技をキメたい、あの憎きクソスラセイヤ君にぶちかましたい。
まさに必殺技とも言うべき「昇龍拳」を目の当りにした岡井少年は一瞬で虜になった。

 

しかし初心者には複雑な操作を求められる昇龍拳、思うように繰り出すことは難しい。
練習しようにも前述の通り家庭用環境は無く、ましてやいきなりアーケードデビューをしようものなら、小学生には大金である100円を乱入対戦により30秒で失ってしまう可能性が高い。

コマンド操作だけでいい、何か練習できるものを。
そう考えた後にたどり着いたのは『ファミリースタジアム』だった。

 

ファミコンの赤いコントローラーを握り、十字キーにコマンド入力を繰り返す。
ソフトはファミスタなので当然昇竜拳は出ない、「ぴぴ」が小刻みに揺れるだけだ。
それでも岡井少年のイメージでは昇竜拳を繰り出すぴぴが描かれていた。

 

ファミスタにはストリートファイトもインドもヨガも無かったけれど、スライディングはあった。
私はイメージの中で一塁に滑り込む走者を何度も昇龍拳で迎撃した、もはや一塁手くにおくんを通り越してリュウに脳内変換されていた。実際に走者にアッパーしようものならtwitterじゃなくとも炎上案件だ。

 


■外道セイヤ君

セイヤ君との戦いの日が来た。もう二人に言葉はいらない、黙ってストⅡをセットしキャラを選ぶ。

彼のお母さんが用意してくれたお盆の中では、2枚1組のサラダせんべいが仲良く鎮座しているが、今日の我々は仲良くすることはできない。
二人の間にはしる溝は深く、もはや倒すべき宿敵となっている、いわば割れせんべいなのだ。

 

相も変わらずダルシムが恥知らずなスライディングでせまる。
練習したとはいえ、そううまく昇竜拳は出てくれない、コントローラーをガチャガチャいじる音とリュウが転倒する姿だけが繰り返され1ラウンドが終わった。
セイヤ君は鼻で笑っていた。

 

悔しい、このままでは終われない、あんなに練習したじゃないか。
ファミスタとは思えない激しい操作を繰り返し、姉に心配されたじゃないか。
昇龍拳を体得するためと言いながら、仕事帰りの父親に突然アッパーを繰り出したじゃないか。
そして父にボディスラムで反撃されて玄関のガラスぶち破って泣いたじゃないか。
結果、父は母に滅茶苦茶に怒られたじゃないか。
正座させられて「もう子供を投げ飛ばしません」と誓約させられてたじゃないか。
「ちちおやとしての ほこりが おまえにはあるのか!?」と言われて……それは無かったか。

 

すべての想いを乗せて昇龍拳は放たれた。
見事に邪知暴虐スライディングを迎撃し、放物線を描いて吹っ飛ぶダルシム
スライディング見て昇龍余裕でしたと言いたい気分だったかもしれない。

その後はガードを解禁し、難なくダルシムを撃破。ゲームのくやしさをゲームでかえすことに成功したのだ。どうだいセイヤ君、僕もなかなかやるもんだろう。

 

セイヤ君は無言で春麗にキャラチェンジしてきた。
そして開幕からパンチ連打で固めて投げを繰り返す「中パンチハメ」と呼ばれるハメ技を実行した。
(※「ハメ技」はいやらしい攻撃ではあるが卑猥な意味は無い、でもすごくいやらしい攻撃だよ)

昇龍拳も間に合わず、ガードの上から投げ飛ばしてくる。
手段を選ばぬキリングマシーンと化したセイヤ君の春麗に、なすすべなく倒れるリュウ
せんしとしての ほこりが おまえにはあるのか!?

 


■最低セイヤ君

戦いは互いの春麗がパンチと投げを刺し合う泥沼となっていた。

 

「汚ぇも糞もあるか」

 

そう発言したセイヤ君にふっきれた私は、ハメ技にはハメ技を。禁断の同キャラ、同戦法をぶつけたのだ。
(※「ハメ技」はする方もされた方も非常に興奮しやすいけれど、性的な意味は多分ないから注意するように)

 

単調な操作でハメてハメられを繰り返す二人、もはや運まかせの不毛なハメあいだ。
(※「ハメる」という字面で興奮したあなたは心が汚れています、私はもちろん興奮していますが)

 

戦績は7勝3負程で私が上回っていた、やはり日頃のおこないがモノを言う、せんしとしてのほこりが違うのだろう。

 

「ヒョー!!」

 

突然奇声をあげたセイヤ君が私のコントローラーを引き抜く。
棒立ちになった私の春麗を瞬殺し、小学生とは思えぬ邪悪な笑みを浮かべて言う。

 

「相手の操作前にコントロールをカットする、これが本当の“フライング”バルセロナアタックだぁ!!」

 

フライングはいいとしてバルセロナは何なんだよと思ったが、もはやそんなことは関係ないと言わんばかりのセイヤ君。戦うのが好きなんじゃねぇ勝つのが好きなんだ、と言う名言を残した氷炎将軍フレイザード様の精神が乗り移った彼を止めることはもうできない。

第2ラウンドの開始と同時に「ヒョー!!」とコントローラー接続部に手を伸ばしたセイヤ君。

 

私の昇龍拳が彼の顎を捉え、その後は掴み合いの喧嘩になった。

 

思えば彼の行動原理もまた怒りと屈辱感だったのかもしれない。
なんとしても勝ちたい、二人はやりかたこそ違ったものの、勝つためにあらゆる手段をとった。
この時のセイヤ君の気持ちも今なら理解できただろうか。

 

 

 

人生初のゲームからのリアルファイトを繰り広げたセイヤ君は、その後高学年に進級すると生徒会長になった。

 

「みんな仲良くしましょう」
「おもいやりを大切にしましょう」
「学校をきれいにしましょう」

 

そんな彼が立派な発言をする度、私は思い出していた。

 

「汚ぇも糞もあるか」

 

という彼の最低発言と邪悪な笑み、そしてフライングバルセロナアタックを。

 

 

 

フライングバルセロナ セイヤ君   終

ドラゴボって略す派ともうまく付き合えるコミュニケイション

私は中学生時代にサイトウ塾という個人経営の学習塾に通っていた。
特別成績が悪かったわけではなく、むしろクラスでも勉強はできた方だったのだが、親のすすめで習い事感覚で通いはじめた塾であった。
私が通う中学校とは別の地区にあったため、そこの生徒は私が全く知らない人ばかりだ。

夏から通い始めたそこには、ナメック星の最長老様みたいな風貌のサイトウ先生の他、4人の他校生がいた。
当然彼等4人は同じ中学の仲間というコミュニティが形成されていたため私は完全によそ者。数学のナントカ先生がとか、野球部のダレダレがとかで盛り上がる彼らの話題には全く入っていけなかったし、私自身も彼らの輪に入ろうとせず、ダレダレがの話からノガレて大人しく好きな小説を読んだりして過ごしていた。

別に話すことが嫌いなわけでも、読書を優先したかったというわけでもない。ではなぜそうしていたか。

私は怖かった、彼らの輪を刺激する事で迫害されるのが。
自衛のため、私はまるで置物のように大人しく邪魔をしない、単なる違う中学の地味なヤツとして過ごしていた。

 


■中学生岡井

『2-6』

自宅から徒歩10分の学び舎の2階、そう書かれたプレートの下の扉を開けるのが苦痛だった。
それでも逃げるのは負けだと毎日自分に言い聞かせ、静かに扉を開ける。

私が教室に入るとクラスは一瞬の静寂の後それぞれの話に戻っていく。
ああ、またこれだ、この空気だよ、大嫌いだ。

 


もともと活発でよく喋るタイプだった私は、自分で言うのもなんだがそれなりに人気者であった。
それはもうドラゴンボールで言えば悟空に相当するほどの人気爆発はごろもフーズ状態であり、みんな仲良く楽しくやろうぜ、なんならオラが笑わせてやっぞ、みたいに幼稚園・小学校と過ごし順風満帆な人生に思えた。

しかし思えば順調がゆえに気付いていなかった、周囲が成長するとともに精神的にも複雑な面が形成されることに。
中学生ともなると、自分の人生や地位、男女の意識など様々なことを考え始めるし、それぞれの「個」と「集団」の折り合いを考える時期でもあった。

私も考えていないわけではなかったが、今まで通り元気にカラっと過ごしていけば大丈夫と信じて疑わなかった。

そしてそれが周囲に嫌悪を巻き起こし、誰かがこう言いはじめた。

「あいつ、ウザくね?」

 


この頃から私はクラスで浮く存在となり、ほどなくしてアイツ無視してやろうぜという流れが形成された。
今まで悟空だった私がいつしかヤムチャ、いや、非戦闘タイプのナメック星人くらいになっていたのだ。
『クラスの人気者だった悟空がナメック星人に転生したら空気化してポルンガにすら無視されてる件』としてラノベ業界をピッコロしてやりたいくらいだ。

今ならば理解できるが、誰もがいつでも明るくほがらかに過ごしているわけではない。
それぞれが成長と共に複雑な悩みを抱えるなかで、何も考えていないようなヤツがウロウロしていれば目障りだっただろう。
私だって会社の同僚として悟空が入ってきて、四六時中隣で強えヤツと闘いたくてワクワクされたらうんざりしそうだ。

おはようと言っても誰もかえしてくれない。

グループを作る授業では避けられる。

「岡井以外はこの後公園でサッカーしようぜ」なんてあからさまなのもあった。

暴力をふるわれたり物を盗られたりするわけではなかったが、徹底して私は仲間外れにされていた。

 


■見えない悪意

不思議なことに、特に私を毛嫌いしている一部を除くクラスメイトは個人同士だとある程度は対応してくれた。
委員会や部活時などは友好的ではないにしろ雑談も成立した、状況限定でドドリアさん程度の存在感は示すことができたのだ。

 


そこで私は集団の怖さというものを認識した、怒れるフリーザ様を前にしたベジータのように恐怖した。

個人ではそれぞれの個性は長所であったりするものだが、こと集団となると目立つヤツは輪を乱す者とみなされてしまう。
自分はそんなに嫌じゃないけど、周りがそんな雰囲気だから、なんとなく面白そうだから無視しておこう、そんな感情が蔓延していたのだ。

これには絶対に勝つことはできない、なぜなら勝つべき相手が、敵がいないから。
自分に殴りかかってくる不良がいれば、殴り返すことで克服できる。
物を盗る犯人がいれば、捕えることで自分の正義を訴える事もできる。
しかし闘う相手はどこにもいなかった、それはただ何となく煙たがられ、面白半分に仲間外れにされるゲームだった。


昨日の委員会時には笑顔でプリントを渡してくれた鈴木さんも、クラスに入るとまるで私が存在しないかのようにふるまっている。

私もこの状況がいじめなのか何なのか、もうわからなくなっていた。
担任や親に相談するっていったい何を相談するんだろう、連絡事項はまわってくるし、全く話ができないわけじゃない。
暴力ももちろんないそれっていじめなの? なにかの勘違いじゃないの?

 


いつしか私は、ただ学校と家を往復するルーチンワークを淡々とこなす中学生活を繰り返すようになった。ストレス性の胃腸炎をかかえるようになったし、それがまた周囲に白い目で見られるネタとなっていた。
ナメック星人であれば水だけで生きていけるところだが、暗くて弱いのに飯だけは食べる悟空、という木偶の坊以下に弱体化したどうしようもない存在となっていたのだ。

ただ、何故か休んだら負けというような思いがあった。
私はクラスの玩具ではないし、この状況を笑ってる奴らの思い通りになりたくない、絶対に泣いたり休んだりしないという意志があった。
結局は皆勤賞をもらった中学生活だったが、楽しかったかと聞かれるとそもそもあまり記憶に残っていないような毎日が続いた。

 


■17時からは別人

夏休みを前に、親から塾に通わないかと提案された。知り合いが先生をしているらしい。
なんだかんだで成績は悪くなかったし、受験のことを考えても多少の余裕があるくらいだったためはじめは断ったが、強引に押し切られるようなかたちで話が決まっていた。

学校のこともあたりさわりのない話しか報告していないため、心配されてということでも無いとは思うが、毎朝無気力気味に家を出ていく子供をみて、親なりに何か感じるものがあったのかもしれない。

そうしてサイトウ塾に通い始めた私だが、クラスであったような同じ轍は踏むまいと、しばらくの間は不気味な程大人しく机に向かってせっせと練習問題を解いて過ごした。

「岡井君って隣の中学から来てるんでしょ? どんな漫画流行ってんの?」

帰る用意をしていると、隣に座っていたスルガ君が話しかけてきた。
はじめはやや警戒したものの、男子中学生なんて単純なもので野球・サッカー・漫画やゲームの話題ですぐに打ち解けた。
それからは塾の仲間と遊ぶことが増え、塾帰りには寄り道して遊びながら帰ったし、日曜日には遠出して遊びに行くこともあった。

あまり気にしていないつもりであったが、私はここで救われていたのかもしれない、ただ中学と家との往復しかしていなかった日々とは全く違った気持ちになっていた。

なお全くの余談だが、後にスルガ君は高校でできた彼女のパンツを盗むという愚行をおかしフラれるという、おもしろウーロン野郎であった。その際「ギャルのパンティーおくれーっ!!!!」と叫んだかどうかは不明だ。いや、多分言ってないけど。

 


■いじめに悩むキミに

なんだか突然中学生に配布される小冊子みたいな小見出しが付いたが、私が言いたいのは駄目な場所だと思ったらとっとと離れた方が良いということだ。
誰だって嫌なヤツに囲まれて生きるのは難しいし、そこで意地を張った結果つぶれてしまうのは悲しい事だ。
ましてやそれに打ち勝つエネルギーを持った人なら、そんな力をしょうもない我慢に使うのはもったいない、もっと認めてくれる人のために使うべきだ。

学校でも会社でも、趣味のサークルでもなんでもいいけれど、なんらかのきっかけでつまはじきにされる時がくるかもしれない。
不満はあるだろうけれど、でもそこで人生を、命をかけてしがみつくべき場所なのかをよく考えてほしい。

原因が自分で思い当たれば、同じ失敗はしないぞと教訓にして去ればいいし、全く身に覚えのない、理不尽なものであればとっとと見切りをつけるべきだ。
結果的に一番傷つく人がいないのがその方法だと思う。

学校や職場は生活の中心となるので逃げ場が無いと思うかもしれないけれど、別のコミュニティは決して遠くない場所に存在する。
家族という関係は最も身近なそれだし、今や手軽にはじめられるネット上の付き合いだって全く馬鹿にできない。天下一武闘会では悟空に負けたけれど、水を持ち帰ったナムさんは村のコミュニティでは今も英雄に違いない。

 

すっげえ強え敵が現れてワクワクするのは、戦闘民族のサイヤ人だけに任せておけばいいのだ。

 

 

 

ドラゴボって略す派ともうまく付き合えるコミュニケイション   終

 

四次元喫茶

その古びた喫茶店は、山頂付近の道路沿いにひっそりと建っていた。

築40年はあろうかという古ぼけた外壁にツタが這い、見ようによっては雰囲気があって素敵と言えなくもないが、床板は一部が腐り落ちているし、壁に入ったヒビをいつまでも修理しないので隙間風が入りまくる快適とはいえない環境だった。
でもコーヒーの味だけは絶品で遠方からわざわざ山を登って来るファンも多い、ということもなく平凡そのものの味。

しかしながら私の記憶に強烈にこびりつくこの店の特徴、それは注文の通らない喫茶店だということだ。

 

 


■紅茶がおいしいわけでもない喫茶店

友人カトウとのドライブ中偶然発見したこの店、ちょうどのども乾いていたし、ついでに腹ごしらえしようと入店した。

「あぁー う…… いらっしゃぁい……」

若干腰が曲がって声もしわがれてはいるが、にこやかな表情で婆さんが出迎えた。

適当に座れと言われた我々は窓際のテーブル席に着席し、メニューを眺める。
サンドイッチ、ナポリタン、ハンバーグ、クリームソーダにホットコーヒー。
うん、外観通りの昔ながらの喫茶店メニューだ。私はこういう雰囲気が好きだし、ドリンクにレモネードがあることも個人的にはポイントが高い。

水を持ってきた婆さんに注文をする。私はナポリタン、カトウはしょうが焼き定食、食後にレモネードとホットコーヒーを注文した。
窓から見える景色は本当に素晴らしく、夜になったら夜景も楽しめそうだななどと談笑していると、婆さんがテーブルに料理を置いて言う。

「ホットサンドとハンバーグお待たせぇ」

……?

カトウと二人で顔を見合わせる、あれ、テーブルを間違えているのかな。
婆さんにこれは違うテーブルのオーダーではありませんかとたずね、伝票も確認してもらう。

ああ間違えましたごめんなさいと婆さんが謝り、いえ気にしないでくれたまえハッハッハなどと、なごやかかつすみやかな事の解決を期待したのだが、ここで思わぬ方向に話が動く。

婆さんはおかしなことを言う客だというような顔をして

「いえ、お客様は確かにホットサンドとハンバーグです、伝票にも書いてありますぅ」

差し出された伝票にも確かにそう書いてあった。
なんだろう、新手の詐欺だろうか、それともこの店ではナポリタンをホットサンドと呼んでいるのか、いや、だとしてもメニューの名前がおかしい。
注文時の言い方がまずかったのか、だとしてもしょうが焼きとハンバーグは音としても似ていないだろう、
少なくとも我々が考えていたものと全く違うメニューが出たのだから、作りなおしてもらうことも考えるべきか。
そんな考えがカトウとの間で駆け巡り、少々沈黙が訪れる。

「……何か間違っていたでしょうかぁ」

心底悲しそうな顔をした婆さんを見て我々は何も言えなくなり、いえ、いただきますぅ、と静かに食べ始めた。
うん、味は普通だ、これが口に合わなかったら不満も大きいだろうが、そこまでナポリタンへこだわってもいないので結果的には問題ない。

食後のレモネードとコーヒーは間違いなく出て来たし、つまらないこだわりで周囲を傷つけるのはよくないと笑い話にして店を出た。

 

 


■喫茶ふたたび

「あの店また行ってみようぜ」

季節が一つ変わった頃、カトウが突然言い出した。
わざわざ行くような店でも無いと思いつつ、暇だったという著しく積極性に欠ける行動原理で山道ルートに車を走らせた。
ここだけ昭和かよというたたずまいのその店では、おそらく昭和初期、下手すると大正時代製の婆さんが出迎える。

「また別のメニューが出てくるのかな」
「まさか、あのときはたまたまだったんだよ」

そんな会話をしながら今回は日替わりランチとコーヒーをそれぞれ二人前注文した、ちなみに日替わりはミックスフライ定食だ。

 

 

数分後に我々のテーブルにはオムライスとハンバーグが乗っていた。

コントか、テンドンか、いえ天丼ではなくオムライスです、じゃねえわ、やかましいわ。
どう考えてもおかしい、仮に日替わりメニューが何らかの理由で変わっていたとしても、同じ内容の二人前のはずが全く別の品物が出てきている。
今回は文句のひとつも言おうとしたが、婆さんが例のごとく悲しそうな顔をする。

私はここではっと気づいた。
そうだ、高齢になると耳が遠くなるのは当たり前だ、きっとこの婆さんはこれまでも度々客に注文の間違いを指摘されてきたのだ。

長年守ってきたこの店、しかし寄る年波には勝てない、ツタ江(仮名)は限界を感じていた。
お客様に喜んで頂ければ、その思い一心で店を続けてきたが、いつしか客を不快にする店になってしまった。
飲食店の店員に必要以上に偉そうにタメ口をきくアホな男に
「注文違うじゃねえかババア! 土下座しろ! 誠意みせろや!」
とまくし立てられ、頭を床にこすりつけながらツタ江は涙を流していたのだ。

そうだ、そうに違いない。

私はカトウに黙って食べろ、ツタ江さんも大変なんだよと伝え、黙々とオムライスを口に運んだ。
カトウが「ツタ江って誰だよ」としつこく聞いてくるが、感極まった私はうまくその背景を説明することができなかった。
そのまま勢いよくコーヒーを流し込んで、おいしかったですと店を出た。

するとほぼ同時に会計を済ませ店を出た夫婦客にカトウが声をかけていた、

「この店 注文と違うものが出てきません?」

おい馬鹿やめろ、これ以上ツタ江さんの心を傷つけないでくれ、

「この店には10年以上通っているけど間違われたことは無い、耳が遠いという話も聞いた事が無いな」

旦那の方がしっかりとした口調で答える、気をつかって嘘をついているというようにも見えない。
一体どういう事だ、そう思って食べログを開いて店の口コミを調べてみた。
口コミ数は7件しか無かったものの、どこにも注文の件には触れられていない。

一体これはどういうことだ、私の思考は完全にツタ江に翻弄されていた。
「ちっくしょうツタ江め、一体どういうつもりだ」
思わず声に出てしまった。
「いやさっきからツタ江って誰なんだよ」
カトウがしつこく聞いてくる、うるさい黙れ。

 

 


■オーダー四次元魔境

当時付き合っていた彼女と店に来た。
カトウと二人の時にオーダー事故が起きるならば、彼を戦力外通告して新たな戦力で臨むべきだろう。
彼女には事前にいきさつを話しており、ここは実験のためオーダーも彼女におこなってもらう。
この何がでるかわからない魔境と化したオーダーシステムを解き明かしてやりたい。
私はミックスサンドとレモネード、彼女はエビグラタンと紅茶を選択して注文、しばし時を待った。

「エビグラタンとハンバーグお待ちでぇす」

もういよいよハンバーグ皆勤賞か、執念のようなものすら感じるわ。
今までカトウがハンバーグにとりつかれているのかと思っていたけれど、とりつかれているのはむしろ私だったのか。
そしてエビグラタンは普通に来るのかよ、何基準なんだ、呪いか、ハンバーグに恨みをかうような身に覚えが無い、わんぱくでもたくましく育ったつもりだ。

「あっ、注文したのミックスサンドですよ」

物怖じしない性格の彼女がすかさず婆さんに言った、男としては若干情けないが頼もしさすら感じる、がんばれ彼女彼女がんばれ。
よく考えたら直接間違いだと指摘したことはなかったのだ、いったいどんな反応をするんだツタ江。
まさか私が先だったご主人の若い頃にそっくりで、気を引くためにわざと間違っていたとでも言うのか。い、いけねぇやツタ江さん、あっしには心に決めた人が――

「うぅ? あぁ本当だ、そっちのお客さんいっつもハンバーグだから、どうもねぇ……」

いつの間にかハンバーグの男として認定されていた。
いや、そもそも最初から一度たりともハンバーグを注文したことは無いんだが。

「……ごめんねぇ 作りなおすかい?」

あぁ、またあの悲しそうな顔だ。
まぁいいさ、ハンバーグもおいしいさ。
彼女の前でかっこつけたい気持ちも手伝って、器の大きいハンバーグ男となった。

ホント、言った通り変わった店だろ?
そんな話をしながら食事を済ませる、まぁこれも楽しい思い出になるだろう。

「はぁい 食後のドリンクですぅ」

登場する紅茶とジンジャーエール

紅茶とジンジャーエール

ジ ン ジ ャ ー エ ー ル

 


今までここだけは守られてきたドリンクオーダーにもまさかの浸食。
確かに色味としてはレモネードに似ていないくもないが……
いや、もうこの際そんなことはどうでもいい、婆さんはわざとやっているんだと確信した。

やってくれたなツタ江ェ!!

多分名前ツタ江じゃないけどォ!!

 

 

 

 


でも面白くてその後もたまに行った。

 

 

 

 


四次元喫茶     終